巣鴨教会聖書研究会 出エジプト記7章8節〜8章11節

2007年9月16日 渡辺善忠

 

1.神々の戦い

この章に最も大きな影響を与えた背景は、エジプトで尊ばれていた魔術でした。 古代エジプトにおいて魔術は、神や霊の力によって自分の望み通りの出来事を起こす宗教的行為だと考えられていました。特に、エジプトの神々は自然を司る存在であると理解されていたため、この章の出来事には、魔術と魔術の争いではなく、イスラエルとエジプトの神々の戦いが象徴されていると言えましょう。 エジプトで魔術が盛んであったことは、新約聖書にも次のように伝えられています。 「ヤンネとヤンブレがモーセに逆らったように、彼らも真理に逆らっています」 (テモテへの第二の手紙3章8節) 注)ヤンネとヤンブレはエジプトの魔術師の名前 新約聖書にこのように記されていることから、イスラエルの人々は、古代エジプトで魔術が盛んであったことを、長く語り伝えていたと考えられています。 私たちはまた、エジプトで魔術が尊ばれていたことは、私たちに身近な意味があることを学びたいと思います。なぜなら、エジプトの人々が魔術の虜となっていたことには、自分の欲望を実現するために神を操りたいと願う私たちの悪しき思いが示されているからです。私たちはこの意味をおぼえて、この章の出来事によって自らを顧み、神を操る思いを捨て、神に信頼を持ち続けることの大切さを学びたいと思います。

2.預言的意味

この章に記されている不思議な出来事には、預言的な意味もあります。この出来事が預言的な意味を持っていることは、「アロンの杖は彼らの杖をのみ込んだ」(12節)という言葉に示されています。なぜなら、出エジプト記において、「のみ込む」という言葉がこの他に用いられている唯一の箇所は、海がエジプト人をのみ込んだ場面であるため、この御言葉は、神がエジプト人を滅ぼされ、イスラエルを救って下さる御業を指し示す預言の意味を持っていると考えられるからです。 また、同じ場面に登場する「蛇」という言葉にも預言的な意味があります。なぜなら、「蛇」の元の言葉である「タンニン」というヘブライ語は、出エジプト記の他の箇所では、神が滅ぼされる「混沌」と同じ言葉であるため、この言葉には、神がイスラエルを、混沌状態から救って下さる御業が示されているからです。「混沌」という言葉は、出エジプト記が現在の形に編纂された時代に、イスラエルの人々がバビロンに捕虜とされていた状態を示しています。このことから、「蛇」(=混沌)という言葉にも、神が、やがてイスラエルの人々を救って下さる預言の意味があると考えられます。 この二つの意味から、この章に記されている出来事は、近くは出エジプトの出来事を、そして遠くはバビロンからの解放の出来事を預言していると言えましょう。

3.私たちへのメッセージ

エジプトの人々が、魔術で神を操ることができると考えていたことに対して、モーセとアロンは、神のご命令に従って不思議な業を行いました。このことには、人間ではなく、神が地上の全ての出来事を司っておられることが示されています。私たちはこの意味を心に留めて、神のみに信頼を置いて歩むと共に、私たちを混沌から救って下さる神のくしき御業を信じつつ、信仰の道を歩み続けてまいりましょう。